矢作法律事務所 Archives

いわゆるフリーランス保護法の制定について

作成者: Tatsuya Yahagi|2023/05/25 3:49:15

 

働き方の多様化の進展に鑑み、個人がその選択により企業等に雇われずに独立した事業者(いわゆるフリーランス)として安定的に業務に従事することのできる環境を整備することを目的として、2023年の通常国会にて「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(「フリーランス・事業者間取引適正化等法」、一般的には「フリーランス保護法」などと呼ばれています)が可決制定されました(2023年4月28日可決、5月12日公布)。この法律は、公布日から1年6月を超えない範囲で政令で定める日(⇒遅くとも2024年11月頃まで)に施行される予定です。
類似の法律としては、下請事業者の保護を目的としたいわゆる下請法が既に存在していますが、このフリーランス・事業者間取引適正化等法は、いわゆるフリーランスへのBtoBの業務委託を、下請法よりも広い範囲で一般的に規律するもので、実務にかなりの影響を与えることになるものと思われます。新法の概要は以下の通りです。
(1)保護の対象となるフリーランス(特定受託事業者)(新法2条1項)
新法の保護の対象となるフリーランスは「特定受託事業者」と定義されており、簡単に言えば、従業員を雇用しない事業者がこれに該当します。従業員を雇用していない個人事業主はもちろんのこと、法人であっても代表者以外に役員又は従業員がいない場合は、特定受託事業者に該当します。なお、厚生労働省のウェブサイトに掲示されている本法律の概要においては、従業員には「短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まない」とされています(https://www.mhlw.go.jp/content/001096814.pdf)。
(2)取引内容の明示義務(新法3条)
事業者が特定受託事業者に業務を委託する場合(特定受託事業者に対するBtoBの業務委託の場合)、給付の内容、報酬の額、支払期日等の事項を、書面又は電磁的方法(メール等が想定されています)により明示する必要があります。(この明示義務は、(3)以下で述べる義務と異なり、委託する側がフリーランスである場合も適用されますので留意が必要です。)
(3)60日以内の報酬支払期日設定義務(新法4条)
従業員を雇用する事業者(法人の場合は、従業員を雇用する場合のほか、二人以上の役員がいる場合を含みます)が特定受託事業者に業務を委託する場合(なお、このような事業者を特定業務委託事業者といいます)、報酬の支払期日を給付の受領日(※検査の合格日ではありません)から60日以内(かつ、できる限り短い期間内)に設定し、支払う必要があります。但し、再委託の場合は、下位規則にて定める一定の事項を特定受託事業者に明示した場合に限り、発注元からの報酬の支払期日の30日以内(かつ、できる限り短い期間内)に支払期日を設定することとなります。
(4)特定業務委託事業者の遵守事項(新法5条)
政令で定める期間以上の特定受託事業者との業務委託においては、特定業務委託事業者による以下の行為が禁止されます(詳細は今後ガイドライン等により明確化される予定です)。
・不当な受領拒否
・不当な報酬減額
・不当な返品
・買いたたき
・物の購入強制、役務の利用強制
・経済上の利益の提供強制
・不当な給付内容の変更、やり直し
(5)特定業務委託事業者による就業環境の整備義務
特定受託事業者である個人又は法人の代表者の就業環境の整備のために、特定業務委託事業者に以下の義務が課せられます。
・広告等における募集情報の的確な表示義務(新法12条)
・妊娠、出産、育児、介護に対する配慮義務(新法13条)
・ハラスメントに係る相談対応等の体制整備義務(新法14条)
・継続的な業務委託契約の解除・不更新時の30日の予告義務(新法16条)

新法による規律の具体的内容や詳細については、今後制定・策定される政省令や指針、ガイドライン等において規定・明確化される予定です。よって、各事業者において新法への具体的対応を検討する上では、今後出されるこれらの政省令等の動向・内容にも注視が必要です。
なお、上述の通り、新法の規律はフリーランスに業務を委託する事業者(下請法とは異なり資本金額の大小にかかわらず、また法人のみならず個人事業主も含みます)に広く適用されることとなります。私見にはなりますが、仮に今後出される政省令や指針、ガイドライン等において複雑あるいは厳格に過ぎる規律や法解釈が提示されてしまうと、小規模な事業者や個人事業主ではこれらに事実上対応できず、結果として多くの事業者に遵守されない法律となってしまうおそれもあるように思われます。新法の趣旨を的確かつ確実に実現するためにも、現実的な遵守可能性を踏まえた実効性のある規律や解釈が、下位の法令・ガイドライン等において示されることが望まれるところです。